俳優としてドラマ、映画、舞台などで活動している星田英利さんが書いたはじめての小説『くちを失くした蝶』。主人公のミコトは貧困、ネグレクト、いじめに苦しんでいる女子高生なんだって。どうして小説を書くことになったのか、なぜJKが主人公なのか、そして「本を読むことの意味」について、聞いてみたよ。 

登場人物の声を聞いてたら物語が出来上がった

 

――どうして小説を書こうと思ったんですか? 

「コロナ禍の緊急事態宣言中は、仕事も全部ストップしたし、単身赴任なので離れて住んでいる家族とも会えなくて、ずっと家にひとりでいたんです。だんだん精神的に追い込まれていって、思いつめてしまうようになりました。何かしないとその気持ちから逃げられなくなって、話の流れも結末も何も決めずに書き始めたのがきっかけです」 

 

――高校生のミコトが主人公ですが、最初からJKを主人公にしようと決めていたんですか? 

「女子高生にしようとは思っていなかったです。ただ、そのときの自分から逃げたい気持ちで書き始めたので。僕とかけ離れた人物で頭に浮かんだのが、女子高生だったという感じです。別にカッコつけてるわけじゃないんですけど、僕が“ここでこういう人物を出そう”とか“こういうストーリーにしよう”と考えながら書いたわけではなくて、登場人物たちが勝手に動いているのをレポートした感覚なんです。頭の中にいろんな人物が出てきて、動いて、話が進んでいきました」 

 

――ご自身とミコトで共通点はありますか? 

「主人公のミコトとは、自分の困っていることや悩みを人に言わないところが似ていますね。でも、読み返してみるとミコトだけでなく、すべての登場人物に自分の要素が少しずつ入っているなと思います」 

 


ミコトみたいな子がいることが広く知られるきっかけになれば

 

――主人公のミコトは貧困家庭で育って、ネグレクト、いじめなど苦しい境遇を生きています。ミコトのような子については、前から関心があったのですか? 

「若者の貧困や虐待の問題はずっと前からあるもので、1人で我慢したりがんばっているから気づかれていないかもしれませんが。僕も以前はそういう問題に関心がなかった恥ずかしい人間なんですけど。僕が小説で書くことで、“エラそうに言うな!”とか“現実も良く知らないのに書きやがって!”でもいいんです。どんな形でも取り上げられれば、隠れている問題が明らかになるから。“こんな子、本当にいる?”という人が、実際にいるんだと知るきっかけになれば」 

 

――ミコトと同世代のSeventeen読者に対しては、何か思うことはありますか? 

「 『いい大人になんかならなくていいけど、最低な大人にだけはなるな』と思いますね。普通のことをする普通の大人になってほしい。“普通”っていうのは、“弱い者をいじめない”ということ。なんでミコトみたいな子が自分の境遇を隠すのかって、弱い人が弱いところを見せたらそこをたたく最低なやつがいるからだと思うので」 

 

 

本を読んでるかどうかは、書いた文章ですぐにわかる! 

 

 

 ――星田さんはどんな高校生でしたか?  

「男子高だったんですけど、学校では全然喋らなかったですね。時間でいうと3年間全部あわせて10分くらいじゃないかな。正直二度と戻りたくないです(笑)!」 

 

――学校生活以外で楽しいことはありましたか? 

 「地元の中学の友達と草野球チームを作ってて、そいつらとワイワイするのは楽しかったですね」 

 

 

 

――本を読むのは、高校時代から好きでしたか? 

「好きでしたね。物心ついたころから読んでました。中学校でハマったのが星新一さん。広告か何かで短い物語を読んで、なにこれおもしろい!となって、おこづかい貯めて買ったんです。星新一さんの作品は全部そろえました」 

 

――正直、本って読んだほうがいいと思いますか? 

「“本読むっていいことだから読みなさい”って言われても読まないでしょ(笑)? 逆に“読むな”と言っても読む子は読むだろうし。ただ、本を読まない人は想像力が育たないんだろうとは思いますね。日本語の映像に字幕が入っていて、“この後、こうなりました”って細かく説明されてるような映像、動画が多いのはそういうことなのかなと」 

 

――やっぱり本を読むって、大事なことなんですね。 

 「どんなにおもしろくない本でも読み終わった後には絶対に何かがプラスになっている。知らない言葉や漢字、新しい言い回しを覚えたりするんで。だからファンレターやメッセージでも、もらった文章を読むと、その人が本を読んでいるか読んでないかってすぐわかるんですよ。伝え方が全然違うので。でも、若い子たちがみんな本を読むようになって知識や想像力がついたら、僕たち大人は負けちゃうんで。読まなくていいです!(笑)」 

 

 

 

ひとつひとつの質問に、じっくりと考えて答えてくれた星田さん。言葉を大切にしてお話されているのが伝わってきたよ。星田さんのインタビューを読んで「たまには本も読んでみよっかな」と思ったコは、『くちを失くした蝶』を手に取ってみてね!

 

 

『くちを失くした蝶』 星田英利 

定価:1760円(1600円+税) 発行:株式会社KADOKAWA

題字/M・H 装画/しらこ 装丁/原田郁麻

 

<あらすじ>

 子どものころから貧困家庭で育ってきたミコト。さらにネグレクト、いじめなどつらい経験をしながら、前向きに生き抜いて高校生に。でも、いくら頑張っても逃れようがない現実に絶望したミコトは自分の命を絶つことを決意。そして18歳の誕生日に行動を起こし…。 

 

<プロフィール> 

ほしだ・ひでとし

1971年生まれ、大阪府出身。 

「ほっしゃん。」として活動し、2005年に『第3回R-1ぐらんぷり』にて優勝。その後、芸名から本名に戻し、俳優としてドラマ、映画、舞台などで活躍。